19期振り返りブログ【ぺいさん編】なぜ桶屋は儲かったのか

はじめに

おはようございます。19期のぺいです。振り返りブログということで自身最後のゼミブログとなります。このゼミブログ、毎週の活動報告を決められた担当の人が書いていく、ゼミ員に課せられたタスクではあるのですが、個人的には毎回書くのを楽しんでいました。内容自体は活動報告がメインで、大きく変えられることはありませんが、「自分が感じたことをどう組みこむか」とか、「どうやったら伝わるか」とか。「そのためにはどう遊び心を組み込めるか。どんな掴みにしようか、どう次の担当へバトンパスしようか」などなど。

新年一発目のゼミブログを担当したときには文中に出てくる数字の数を足したら2020になるギミックを入れたこともありました。

(この時は三田論の「三」も含んだ傑作が完成したのですが、ゼミ的に公開してはいけない数字も含んでいたため、ブログの編集段階で手直しが入ってしまいました。もしそのまま公開されていたとしても誰一人として気づかなかったとは思いますが…)

そんなゼミブログも振り返りブログと名を変えてとうとう最後です。

なんとなく寂しい気持ちになりますね。

牛島ゼミで身についたこと

牛島ゼミでの二年間を振り返ったときに身についたと思うのは思考のフレームワークです。これについては4年生の振り返りイベントでも少し触れているのですが、「問題提起をし、それに対する仮説を立てて検証する。仮説が間違っていたり、検証がまだ足りなかったりしたらさらに仮説を立てて検証する」という一連の流れのことです。

例えば桶屋Aが儲かったという事例があったとき、「なぜ桶屋Aは儲かったのか。」という問題提起を立て、仮説を「桶を作るのにかかる費用を安くできたから」にしたとします。

その上で実際に検証してみた結果、費用は実際に変わっていないことが明らかとなったとすると、再度、仮説を立て直さなければなりません。これを桶屋Aが儲かった理由が分かるまで繰り返し行い続けるということです。

一見シンプルな要因分析に見えますが、これを実際に行うためには様々な要素が複雑に絡まってきます。

まず、この課題自体、桶屋にアンテナを張っていないとそもそもの着眼点を持つことができませんし、桶屋に着目したとしても一般的な桶屋がどのような特性や歴史を持っているのか知らないと「儲かった桶屋A」という特異点を見つけることができません。

つまり絶対的な知識量が必要で、まずは一般的な桶屋がどういったもので、どう作られてどう販売されているのか、どういう時に使われるのか、といった概観の知識を身につけなければなりませんし、それ以外にも例えば「桶屋Xが儲かった理由」や「なぜ近頃の桶屋は儲からないのか」、「(桶屋Aがある)地域における行政の役割」といった、テーマに繋がりそうな先駆者たちの研究(先行研究)を探し、批判的に読んで新たな視点を見つけていかなければなりません。

ただ、その際、間違った情報を身につけて進めてしまうと、根底となる前提部分が崩れ、それ以降の研究が水泡に帰してしまうため、定義づけという条件の整理(例:桶屋にも様々な業態があるけど、桶屋が意味するものとは?)も含め、確固たる根拠に添いながら慎重に進めていかなければなりません。問題提起は検証を重ねていく中で更新されていきますが、大元の問題提起は揺るぎないものにしなければなりません。

しかし一方で、ただ慎重に、ただ膨大に知識量を増やせばいいのではなく、「提出期限」という時間で区切られている場合は関連する先行研究をどうやって効率的に見つけるのか、という効率性やタイムマネジメントも問われてきます。


(三田論会議をゼミ員の家で行った時の一枚。美味しそうなイチジクのショートケーキだなぁ。)

そうしてようやく要因分析がスタートしますが、ここでも様々なハードルが関わってきます。「桶を作るのにかかる費用を安くできたから」という仮説を検証するときに、「桶屋Aに実際にヒアリング調査をして確かめよう」となったとします。ただ、桶屋Aはそのヒアリング調査に対して必ずしも協力的であるとは限りません。そのため、相手側に立ち、失礼のないようにアポイントメントを取らなければなりませんし、相手からなるべく正確な情報を引き出すための質問や雰囲気づくりなどにも目を向けなければなりません。

加えて、そのヒアリング調査で思うような結果を得られる保証はないため、自らできる限りの内容は調べなければなりませんが、過去の欲しいデータや資料がない、なんてことはざらにありますし、アンケート調査などで新たにデータを集めるにしても、曜日や時間帯や人の属性など、条件を揃えることは困難を極めます。

また、これらをグループで行う際にはグループ全体が一緒の方向で進み続けるための説明力、言語化なども問われます。

これらのハードルに躓き、苦しくなってくるとそもそもの「桶屋」というテーマ設定に限界を感じ始めたり、新たな仮説を生み出す創造性がなくなり、根拠をつぎはぎして綺麗にストーリーを作ろうとしがちになったりします。しかしそうなると視点はどんどん狭まり、本筋から遠ざかっていきます。つまり丹念に事実を追っていく根気強さや視点が凝り固まらずに発想を飛躍させる想像力が必要になってきます。

さらにたとえ、ここまでのハードルを乗り越え、新たな要因を発見したとしても、桶屋Aが儲かった全ての要因や、そのそれぞれの要因の比重を出すことはできません。先生は「納得感」と表現されていましたが、提出期限がある場合は最終的にある程度の部分で落とし所を見つける必要もあります。

このように、要因分析一つを取っても、疑問を見つけられる論理的思考力や批判的思考力。仮説やそれに対する検証方法を立てられる創造性や構成力。検証を繰り返し行うことができる根気強さ。さらにはこれをグループで期限までに行うときには協調性や説明力、現実的な視点など、実に様々な要素が複雑に絡んできます。

とはいうものの、こうして多様な視点から深く考えることというのは簡単ではなく、自分自身、完璧にできているわけではありませんが、ゼミ活動での実践を通して日々の思考の中でも意識するくらいには身についたと思います。

文言だけ見ると論文っぽいですが、決して論文製作によってだけでなく、ディベート活動でも相手の立論を批判的に見たり、相手の立場に立って想定問答集を考えたりするように、ゼミ活動全体を通して鍛えられました。

そしてこれらの力は自分だけでなく、ゼミで揉まれた全ての人に身についていると感じます。


(リモートで有難豚に会った時の一枚。左が自分の描いた豚さんです。)

全ての物事は地続きに繋がっている

ではなぜこのフレームワークを身につけることが大切なのか。なぜこんな面倒くさい要因分析をする必要があるのか。

それは学びを通して先へのヒントを得られるからです。

桶屋が儲かった理由を見つけることで、他の仕事で儲けるヒントを見つけられるかもしれませんし、桶屋が儲かった理由を見つける過程で、他者に対する理解が深まり、良い人間関係を築くヒントを得られるかもしれません。

また、違いに意識が向くようになるため、日頃から課題を見つけるアンテナがより敏感になりますし、物事をただの結果として受け止めるのではなく、背景も含んだ多面的な視点で捉えるようになり、視野が加速度的に開けていきます。

そして要因に最終的な答えが存在しないのと同様に、その視野には無限の広がりがあるため、そこから「風が吹けば桶屋が儲かる」のような、新しく、創造性に富んだ発想やストーリーが生まれ、それらは“面白い”“興味深い”と人の心を動かしていきます。

自分自身、ゼミに入るまでは興味あることを自分本位で表面的になぞることが多かったのですが、最近ではそれらを歴史的な背景も含んで創造力を働かせながら知っていくことに面白さを感じ始めています。おじさんが城やお寺にハマる理由も、今ではなんとなく分かってしまうような気がするのは少し怖いですが。


(パワーに変えてください。)

そしてこれらの学びのきっかけは意外と身近なところに転がっています。

ゼミブログを少し工夫して書こうと意識するだけで発想力や構成力などが鍛えられますし、先生の講評を自分になぞらえながら聞く意識を持つだけでも自分の説明や思考に足りなかった部分を発見できます。また、自分のプライドを捨てようと意識するだけで相手の意見を受け入れることができ、自分にない視点を得られるチャンスに繋がるかもしれません。

牛ゼミが掲げている三本柱はもちろん大切な活動軸ですが、それだけでなく、ゼミに対する日々の取り組み方、意識の仕方を一つ工夫することでかけがえのない学びは得られます。そして牛島ゼミにはそんな刺激のある環境が整っていました。

二年生の皆さんの中には何か変えたい気持ちはあるけど、どうすればいいのか分からないという人も多いと思います。そういう時は大きく考えるのではなく、自分の周りにある小さなチャンスを見つめ直してみてください。このゼミブログが何かしらのチャンスに繋がること、そして願わくば牛島ゼミで活動したいと思ってほしい、という去りゆくゼミ員からの淡い期待を込めて締めたいと思います。

二年間ありがとうございました。