【牛の放牧合宿・対談SP・第3弾】 ~かっつぁんさんに学ぶいすみ地域の魅力~

千葉県いすみ市の田舎町にポツンと1軒、こじんまりとしたおにぎり屋さんがある。「おにぎり工房かっつぁん」だ。そのお店はどこか昔懐かしく、まるで実家にいるかのような温かみに包まれ、訪れる人の心に安らぎを与える。そんなお店を営むのが、かっつぁんさんこと、坂本勝彦さんである。

かっつぁんさんは、東京でサラリーマンとして働いた後に、いすみ米の魅力に惹かれていすみに移住をし、千葉でおにぎり屋さんを始めた。そして現在はいすみの町で自宅に隣接したお店を営んでいる。

 

彼の暮らすいすみの町は移住の町として有名だ。

かっつぁんさんは何に惹かれていすみへの移住を決めたのか、またいすみの何が多くの人々を惹きつけるのか。かっつぁんさんのお話を通して、彼がいすみに移住したきっかけ、いすみの誇る地域コミュニティの魅力、彼の人生観について迫りたいと思う。

 

 

1.都会から田舎へ、移住という選択

 

先述した通り、かっつぁんさんはサラリーマン時代には東京に住んでおり、東京の環境に満足していた。しかしある時、その都会暮らしに対する考え方が180度転換したきっかけがあった。それは、「子どもの存在」だ。彼は東京は子どもを育てるところだとは考えておらず、「自分の子どもを育てる環境」を求めていた。その考えの根底には「自分の育った環境」にあるという。かっつぁんさんは子どもの頃、綺麗な空気と自然の恵みのある環境の中で育ってきた。その実体験から、自分の子どもにも綺麗な空気の中で、自然の恵みを味わいながら育って欲しいという考えになったのだそうだ。

 

その考えのもとでいすみを選んだ理由は、偶然と直感。若い頃の先輩がいすみの近くに住んでおり、そこから紹介で実際に足を運んでみたところ、「ここに住もう!」と決めたのだという。この直感は、ゆくゆくおにぎり屋さんを始める決定打となることになった。かっつぁんさん自身、いずれ脱サラし、起業することを視野に入れていたが、当時はおにぎり屋さんを始めようとは全く考えていなかった。しかし、いすみ米の美味しさに衝撃を受けたことがきっかけとなり、最終的におにぎり屋さんの開業を決意したのだ。このいすみ米を「もっと多くの人に食べてもらいたい!」という思いからすぐに実行に移した。

 

最初は認知度向上を図るために、いすみから比較的近い人口集積地である千葉市の商店街に出店しており、その当初はそのまま店の規模を拡大し、ゆくゆくは東京に進出することも考えていた。それにも関わらず、結果的に現在お店があるいすみに移転することを選んだ理由は、千葉県内ですら「いすみ」があまり知られていなかったことからもっといすみの魅力を伝える必用があると感じたことに加えて、東京進出を目指すことにはサラリーマン時代に逆戻りするような違和感があったことと、もっといすみに地域密着したいと思ったことが挙げられる。これらの理由の中でいすみの魅力を知るために「地域密着」という観点にフォーカスして私たちはお話を伺った。

 

 

2.コミュニティの重要性

かっつぁんさんが移住してきた当初、いすみは移住者を受け入れる空気は薄かったそうだ。しかし、いすみは移住者定住に向けた動きが早かった。それが、現在のいすみの地域コミュニティを大きくしている。かっつぁんさんはおにぎり屋を始めたことで、このいすみという決して大きくはない地域内でも、多種多様な価値観を持つ小さなコミュニティが存在することを知ったという。別のコミュニティに知り合いがいると双方が繋がることで、またコミュニティが広がっていく。「商売を通して地域の人々とのコミュニケーションが爆発的に増えた。そこから他のコミュニティとの出会いがあり、横のつながりが大きくなった」と彼は語った。

 

 

かっつぁんさんはおにぎり屋の傍ら、醤油づくりも行っている。これもコミュニティのひとつであり、個人で行うと材料の仕入れや製造過程での手間、製造後の消費に至るまでの負担が大きい。しかし、これらを共有するコミュニティ・ネットワークがあることで、興味を共有し、同じ意思を持つ者が集まり、一緒に楽しむ。こうして生み出される人と人のつながりの連鎖が、その地域のコミュニティの活力につながっていくのであろう。

 

 

いすみには「米(まい)」という地域通貨がある。この地域通貨「米」もまた地域コミュニティ形成に一翼を担っている。この地域通貨は言わば物々交換を仲介するもの。使えるけどいらないもの(サイズの合わなくなった服や、子供用品)、自分の得意なことや生業としていること(農作物など)をシェアする仕組みである。「この交換の中では必ず交流がある。そしてその交流の中で出会った人たち同士が仲良くなっていく」と語るかっつぁんさん。まだ新しい取り組みであるこの地域通貨だが、既に150名弱の方が使用しており、これからより多くの人に使用してもらえるように広めていくとのことだ。

 

「イベントでおにぎりを販売すると、こんなにおいしいおにぎりがあるのか!と買ってくれる人は意外にたくさんいる。地域のマーケットは、所謂お祭りの屋台で販売しているようなものよりも、地域の物を生かした唯一無二のものを求めていた。」

 

当初はいすみ米の魅力をより多くの人に知ってもらいたいと思い、外へ外へと発信を考えていたという。しかし、イベントへの出店を機にその考えは変化した。この出来事をきっかけに、まずは自分の足元の地域でしっかりと広めていこうという思いが芽生え、地元のいすみにお店を構える場所を決めたそうだ。「もっともっとこの地域でいすみ米の魅力を発信し、浸透させたい」と力強く語った。

 

移住の難しさとして、移住先の地域でいかに馴染めるかどうかということが挙げられる。

その一つの取り組みとして上述した地域通貨がある。地域通貨も、日本円を越えるような存在になり得る。日本円を使わなくても、地域コミュニティの中で循環させられるようなものになる可能性は十分あり得るのだ。「農家なども、持続可能な安心できる繋がりを求めている。外部よりも地域に根ざしたコミュニティが大切になると思う」とかっつぁんさんは語る。

 

 

3.かっつぁんさんに学ぶ、 自分らしく生きること

サラリーマンから独立して「おにぎり屋さん」を立ち上げたかっつぁんさん、彼のパワフルさ、原動力はどこにあるのか。それに迫るべく、最後に彼の人生観を伺った。

 

かっつぁんさんが決断し行動に移す際に、常に意識していることが2つあるそうだ。

 

常に上を目指すこと

サラリーマン時代から上を目指して来たかっつぁんさん。それは、自分が所属してきた会社内部の組織だけに留まらない。外の世界でもまた高みを目指せる場所を探してきた。「自分の選んだ選択を後悔しないように全うしたい」これが何事にも貪欲になって努力してきたかっつぁんさんの生き方の流儀である。

 

面白いと思うことをやってみる

熱しやすく冷めやすいというかっつぁんさん。その行動力は並大抵ではない。彼は「面白いと思うことをやってみる」をモットーにしている。では「面白いと思うことをやってみる」とはいかにして実現できるのだろうか。そのためには、色々なことに興味を持つこと、自分の感性を大切にすることが重要だ、と言う。だが、学生の中には自分は何に興味があるのかわからない人も多くいるだろう。

興味を持つためには、外に出て行動することが大切だと考える。スマホばかりいじらずに、友達と話したり、町を歩いてみたり、外に出ることが大切なのだ。「家で寝てる時間なんてない。」

自ら様々なものに触れて、経験することに時間をかけることで、興味のあるものと出会うことができるのだ。

 

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様々な経歴を経て、人生経験の豊富なかっつぁんさんの原動力は向上心と好奇心にある。

いすみの町のコミュニティにもその持ち前の好奇心から乗り込んで、今ではそのコミュニティの一員としてさらにいすみでの活動の幅を広げている。

 

『一生のうちにできる経験の数は限られているからこそ、やりたいと思ったこと、興味のあることには積極的に挑戦すべき』

 

かっつぁんさんの生き方からそんなことを学ばせてもらう良い機会となった。